ファーバーカステルアカデミーat Itoya開講記念 トークショー開催

 

2015年9月25日(金)  於 銀座・伊東屋 G.Itoya B1F Inspiration Hall

登壇者:ファーバーカステル副社長・ロルフ シファレンス氏、伊東屋社長・伊藤明氏

ファシリテーター:「芸術新潮」編集長 吉田晃子氏

 
 

吉田編集長:それでは、シファレンス副社長、伊藤社長にご登場頂きます。お二人に簡単にご挨拶をお願い致します。

 

シファレンス氏:皆さま、こんにちは。今回、ファーバーカステルアカデミーat Itoyaの開講をとても楽しみに日本にやって来ました。伊東屋さんと共同で進めてきたこのプロジェクトは1年程前から計画しております。伊東屋さんの新しいビジネスコンセプトとも関係がありますので、伊藤社長からも一言お願いしたいと思います。

 

伊藤社長:伊東屋の新本店は今年の6月16日にオープン致しました。その際、「伊東屋とは何をするべき場所なのだろう?」ということを考え、「クリエイティブな時をより美しく、心地よくするサポートをしよう」ということに行き着きました。「クリエイティブな時」というのは仕事に前向きに取り組むという事なのですが、その他文字通り絵を描いたりといったクリエイティビティの発揮をサポートしていこうという点も含まれます。ちょうどその時に、ファーバーカステルさんからアカデミーのお話を頂きました。 

 

吉田編集長:ファーバーカステルは世界最古・最大の鉛筆メーカーですが、お話いただくファーバーカステルアカデミーはドイツで開講されていて、プロのアーティストも生まれているようなアートスクールです。今回ドイツ国外で初めて、ここ日本の伊東屋さんで開講する運びになりました。まず、ドイツのファーバーカステルアカデミーはどのようなことを教えられているのか、どんな方が受講されているのか教えて頂けますか。

 
 

シファレンス氏:ファーバーカステルは非常に歴史が長く、来年255周年を迎えます。創業以来、鉛筆を軸にしておりますが、1995年からアカデミーの始まりとして趣味で絵を描く方や子ども向けのワークショップ、セミナーを行ってきました。アカデミーの設立時には、若いアーティストがファーバーカステルの画材を用いてどんなことをできるのか追求したいという思いがありました。

現在のアカデミーの授業内容は非常に多岐にわたっています。アカデミックに絵画を学ぶこともできますし、クリティブ・ライティングといって小説等を執筆するクラスもあります。

また、グラフィックデザイン学科のように、正式に修士の学位を得ることができる学科もあります。さらに、私たちは国際的なセミナーを開催することがあるため、世界各国からアカデミーを訪れてくれる方々もいます。例えば韓国からはボタニカルアート協会の会員が定期的に来訪していますよ。

 

吉田編集長:伊藤社長もドイツのアカデミーに視察にいらっしゃったとのことですが、ご感想はいかがでしたか?

 

伊藤社長:初めてアカデミーについて伺い、視察が決まった時点では、まさか大学院レベルのものを運営されているとは思いませんでした。詳しく話を聞いていくと、ファーバーカステルアカデミーが、人々の「描きたい」という気持ち、クリエイティビティを膨らませて進めていくということが分かり感激しました。

 

吉田編集長:そもそもドイツ国外、そして銀座の伊東屋さんで開講しようとパートナーシップを組まれた経緯はどのようなものだったのでしょうか?

 

シファレンス氏:ファーバーカステル伯爵と伊藤社長の伯父さんが個人的に親しくされており、数十年前からお付き合いがあったのです。ファーバーカステル自体、文化的な活動をドイツで多々展開しており、日本のアーティストに対しても非常に高く評価してきました。

昨年、伊東屋さんが新しい取り組みをされようとしているというお話を伺った際に、私たちファーバーカステルとしてはアカデミーという事業を行っていることをお話しました。伊東屋さんサイドも興味を持って下さり、日本での開講もできるのではないかということになりました。ドイツ国外初の開講の可能性を探っていく中で、伊東屋さんの新しいビジネスコンセプトを伺ったところ、すべての条件が揃っている印象を受けましたので、私たちからも「ぜひ伊東屋さんで開講したい」と強い希望をお伝えしたのです。

 

吉田編集長:そうだったのですね。伊藤社長も同じお考えだったのでしょうか?

 

伊藤社長:皆さま伊東屋のことはご存知かと存じますが、私たちの扱っている商品はファーバーカステルだけではなく、国内・輸入メーカーのものもあります。今回、新本店のG.Itoyaを作るにあたり、本当に良い物、ずっと長く付き合える本物をお客様にきちんと届けたいということをコンセプトにしていました。そしてモノだけをお渡しするのではなく、どのように使えばそのアイテムが本物であると言えるのか、ということを分かるようにしたいと考えていました。ファーバーカステルアカデミーのことを聞いた時に、ただ画材を提供するだけでなく、画材を使うシーンにフォーカスされているということに大変興味を持ちまして、それならばぜひ一緒にやってみたいと思いました。

 

 

吉田編集長:実際に今年10月からファーバーカステルアカデミーat Itoyaが開講となりますが、

ここで大切にしようと考えていることや、初回の講座はどのようなご予定なのでしょうか?

 

伊藤社長:最初に希望としてお伝えしたのは、日本のカルチャースクールでありがちな、“先生が描いた絵と同じものを描きなさい”ということは避けたいということでした。そうした絵は、出来上がって家に飾った時に、誰の絵か分からないと思います。そうしたことは、クリエイティビティの刺激にならないので避けたかったのです。それから、テクニックを習ったとしても、習ったことが積み重なっただけというのもつまらないと思ったので、絵が出来上がって「家に飾りたくなる絵」を描けるような講座がいいですねと話していました。ただ、すぐに壁に掛けられるような満足の行く絵が描けるようにはならないので、スタッフや講師の方々が研修に行った際に、「形を覚える」「光と影」といった一番シンプルな部分に焦点を当てようということになり、まず第一期はモノクロームの講座で決定しました。もちろんそこで終わるわけではなく、その後は色を使うような講座に移行していくと思います。

 

吉田編集長:講師の方々も実際にドイツへ研修に行かれたと伺っております。

 

伊藤社長:はい、10日間ほど、みっちり研修に参加しました。元々講師をされるような(レベルの高い)方々ですから、絵は描けますよね。ですがそれだけではもちろん足りませんので、ファーバーカステルアカデミーは何を大切にして教えるのか、何に重きをおいて講座を進めていくのかということを学んできたようです。- - -吉田編集長:ちなみに講師の方々はどのような経歴をお持ちの方なのでしょうか?

 

伊藤社長:(前方を指し、)こちらにいらっしゃる岩村先生と山本先生です。岩村先生はドイツの美術大学を出られていて、現在東京の大学でも教えていらっしゃいます。山本先生は東京藝術大学を出られており、予備校の先生もされていました。私自身もアメリカのデザイン学校を出ていまして、講師のお二人の作品なども拝見し、このお二人なら大丈夫だと自信を持って判断できましたので、講師としてお願いをしました。

 

吉田編集長:講師の方々がドイツでのアカデミー研修に参加されていた様子はいかがでしたか?

 

シファレンス氏:このようなプロジェクトにおいて私が大切だと思っているのは、参加者が共通の理解を持つことです。先ほど伊藤社長もおっしゃっていましたが、生徒にとって重要なのは、偉い先生から描き方の知識を教わったり、きれいな絵を描けるように教わることではなく、それに至るプロセスを教わることだと思います。

ですので、日本で教える講師も、ドイツの講師と直接会い議論を重ね、ファーバーカステルアカデミーat Itoyaのコンセプトを共に作ることが大切だと考えています。研修によって日独両方の講師が同じ認識を持って、ファーバーカステルアカデミーat Itoyaのフィロソフィーが、伊東屋さんが求めているものとぴったりと合った形になりました。

(ドイツのファーバーカステルアカデミーの写真を指しながら)こちらは、19世紀に建てられた建物なのですが、現在は鉛筆製造の博物館として使われています。窓に注目してみてください。例えば2階が緑色、3階が青色となっていますが、これらの上層階がアカデミーのスペースとして使われています。

 
 

吉田編集長:ファーバーカステルアカデミーat Itoyaの第一期終了後には、受講生から希望者を募りドイツに研修旅行に行かれるご予定もあると伺いました。

 

伊藤社長:はい、詳細は調整中ですが、日本で学べるところは学び、現地に渡ってドイツのアカデミーの先生たちとも交流を持って頂きたいなと思っています。(ドイツ・ニュルンベルグは)とてもきれいな所なんですよ。

色というのは、それが存在する場所にとても依存していると思うんです。日本の絵の具や色鉛筆は、どうしても日本の自然の中にある色をベースにしているんですね。対して、ファーバーカステルの作っている色というのは、ドイツに実際に行っていただくと、「ああ、こういう色があるのか」と納得するような色です。そのような、色の街になっていますので、そういった点を感じて、学び、現地でスケッチなどをして、最終的にはこのホールで展覧会をできればなと思っています。

 

吉田編集長:さて、今回の展覧会はファーバーカステルアカデミーat Itoyaの開講記念という位置づけですが、こちらはファーバーカステルの最も有名な鉛筆「カステル9000番鉛筆」だけで作ったドレスですね。

作家はドイツで活躍されているケルシュティン・シュルツさんという方です。鉛筆が意外と美しいのだなということにちょっとびっくりしています。また、吉村芳生さんは色鉛筆で非常に写実的な絵をお描きになりました。ぜひ後ほど近寄ってご覧頂きたいです。奥にありますのは、日本とドイツのアカデミー講師による絵が飾られていますね。

今回の展覧会のタイトルは”What can pencil do?”ですが、このタイトルに込められた意味について、シファレンスさん、教えて頂けますか。

 

シファレンス氏:現代のデジタルの時代だからこそ、鉛筆や色鉛筆を使って何ができるのかということをテーマにしました。皆さんもスマートフォンやタブレットを使っていらっしゃるかと思いますが、このような時代だからこそ、自分の手を使ってクリエイティブな事をしてみたいという気持ちが大きくなっているのではないかと思っています。世界各国で、自分の手でものを作る・書くためのアイテムへの需要が高まってきていることを実感しています。

鉛筆さえあれば、自分のアイディアをその場で書きとめることができますし、今までも多くのアーティストがそのように二次元で行ってきましたね。ペンシルスカルプチャーを制作したキルシュテン・シュルツさんは古くからの筆記具である鉛筆を立体的なオブジェにしました。

 

吉田編集長:伊藤社長は絵画を嗜まれると伺ったのですが、鉛筆で何か制作されたりということはありますか?

 

伊藤社長:そうですね、色鉛筆を使うことが多いですね。子供の頃から習っていたのは油絵だったのですが、大人になり仕事をするようになると油絵の道具をいつも開いたままにしておくというのが難しくなってくるんですね。すぐ描けるということで、色鉛筆が多いですね。

 

吉田編集長:外で描かれることもあるのですか。

 

伊藤社長:あります。そんな時に、ファーバーカステルなどのきちんとした画材とそうでないものの差というのがはっきり出るんですよ。先日、アメリカできれいな景色に出会い、絵を描きたくなったのですが手元に画材がなかったので簡単な色鉛筆セットを買いました。例えばそのセットで木を描こうとしても、木に見えないんですよ。緑の色が全然表現できないんです。「緑」と言っても様々で、黄色っぽい緑から茶色っぽい緑まで色々あります。自然の緑というのはベターッとした緑ではないわけですが、安い色鉛筆で描くと、ベタッとしてしまって全然きれいに描けない。やはり、良い物を使えば、(使用できる)色も沢山ありますし、自然に合った色で描けるとその時実感しました。

 

吉田編集長:伊東屋は今年111周年、ファーバーカステルは255周年を迎え長い歴史があるからこそ色々な商品などの開発・提供をされてきたかと思います。今後についての意気込みをお聞かせ頂けますか。

 

伊藤社長:創業255年という会社の方が隣にいると、私たちはまだ111年と子供のような気がするのですが(笑)、この新本店を作る時に、クリエイティブな人たちをサポートしたいという思いがありました。今まで伊東屋というと文房具屋、文房具屋というと筆記具やノートといった目に見えるものを扱うという風に思われるかと思います。でも実際に今、仕事をされる方が使うのはスマートフォンやコンピューターなど、(仕事の)やり方が変わってきています。

我々はそのデジタルのものを無視するわけにはいかないというのがひとつあります。だけど、全てデジタルに行けばいいのかというと、どうしてもデジタルではできないこともあると思うんです。コンピューターでデザインを行うプロの方もいらっしゃいますが、思ったことをぴったりと自分のペン先で描けたり、単に紙に色が乗るというだけでなく紙のテクスチャーなどが分かるというのはアナログの良さだと思うんですね。

色んな技術を使いながらも、できるだけ人の五感に合ったものを届けたいということを強調していきたいなと思います。

 

シファレンス氏:こちらの新しい伊東屋本店、そしてファーバーカステルアカデミーat Itoyaのコンセプトは必ずや実現されると信じています。というのも、人というのはクリエイティビティ、インスピレーションを常に求めているからです。そのために、新しいメディア、ツール、アイディアを求めるということですね。

ファーバーカステルとしては、現在当主は8代目ですが彼との話し合いの中で学んできたことが多々あります。経済状況として不況の時代もありましたが、ファーバーカステル伯爵家で色々な危機を乗り越えてきました。ユーザーの方々がクリエイティビティに憧れを持つということはいつの時代も変わりません。伊藤社長がおっしゃったように、手で感じる紙の触感や手応えといった感覚も、クリエイティビティの発揮には欠かせないものだと思います。現在沢山の方がソーシャルメディアへ投稿をしていらっしゃるかと思いますが、その原点となるのはアナログ、手で触ることのできる感覚を基本にしているかと思います。

ファーバーカステルの今後としては、子ども用アイテム(学用品)、プロアーティスト向け画材、ギフトにも向く高級筆記具に特に注力し、255周年に向けて新しい一歩を踏み出していきたいと思っています。

 

吉田編集長:ありがとうございました。クリエイティビティへ意識の高い両社がタッグを組み、来月からファーバーカステルアカデミーat Itoyaが開講されます。開講に向けて、最後に一言ずつお願い致します。

 

伊藤社長:日本をヨーロッパ等と比べ弱いなと思うのは、何かを始める時に、その内容と価格のバランスはどうなんだろう?と何でも考えてしまうことですね。バランスをとるというのは良いことのように聞こえますが、本当に妥協をせずに良い物を手にする勇気を日本人はなかなか持てないということがあるかと思います。我々は伊東屋で妥協のないことをやりたいと思っていまして、そのひとつがファーバーカステルアカデミーat Itoyaですので、妥協なく学びたいと思われる方はぜひご参加頂ければと思います。

 

シファレンス氏:伊藤社長のおっしゃった、最高の品質のものを使うという価値観は私たちも全く同じ意見です。ファーバーカステルとしてただ製品を提供するだけでなく、それによって得られる素晴らしい体験を提供しようと日頃から考えています。多数の方にアカデミーに参加いただき、来年の研修旅行ではぜひニュルンベルグのシュタインにありますファーバーカステル城や製造拠点をご覧頂ければ嬉しいです。

 

吉田編集長:実際の講座の様子や来年のドイツの研修旅行の様子は来春の「芸術新潮」でもレポートさせていただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

 

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